2012年〜

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エンジン開発履歴』 量産立上り直前、300psエンジンの耐久性確保に苦労する。
開発コード:8200
スーパーチャジャー車開発


川崎重工 勤続46年にて定年退職する。
  ”8200”は玉子の状態から温めて親鳥になる直前で定年退職となってしまった。”2101”の機能試作エンジンにて300ps以上の性能は確保していたが、最大トルク 16.8kgf・m/12,000rpmにT/Mギヤが悲鳴を上げ出した。
  カワサキのベンチ耐久基準は厳しく、まずは全開にて25hrで不具合無きことになっており、実車で25hrフルスロットルで走ると、300km/h×25hr=7,500km
まで行ってしまう。 高出力エンジンは耐久基準を緩めるべきと思う。
21年モデルの ”Ninja H2R” フルパワー 310ps/14,000rpm  公道走行不可。
公道走行不可のバイクに誰が605万円(税込み)も出して買うのか?
過給機付きのロードレースカテゴリーも無いので、ドラッグレースをする位だろう。
公道走行可能で無ければ 300ps以上を出したのは何だったんだろう。
公道を走れないフルパワーモデルとは別に公道走行可能モデル ”Z-H2”が販売されており、
こちらはエンジン出力が 200ps/11,000rpmまでデチューンされており、
300ps以上の性能確保指示はステータスを得たかっただけなのか・・・
”トレリス”パイプフレームも片持ちスイングアームも個人的には好きである。
写真は”Ninja H2R”なのでラムダクトも吸気ダクトもカーボンで出来ている。
デカイ吸気チャンバーは出力アップの要であり、小さくすると出力が落ちてしまう。
燃料タンクには多大なるご迷惑を掛けてしまったが、タンク容量 19Lは確保出来ている。
ベースエンジンは ”ZXー10R”であり、過給が無くても
圧縮比を元に戻せば203ps/13,200rpmを発揮する。
吸気系周りには性能向上の秘密?が沢山詰まっており、一番性能向上に貢献したのは
水冷インタークーラ用に製作した巨大な吸気チャンバーである。
S・Cで圧縮された空気は150℃程に上昇するが、吸気チャンバーで断熱膨張させると
100℃程まで空気温度が下がり、大きく性能向上に繋がった。
エアーファンネルに取付けた金網はエアーフイルターの機能もあるが、これを付けること
によりインジェクタから噴射ガソリンが拡散されるのか数馬力ではあるが、性能向上が図られた。
吸気チャンバー内の空気の流れは技研(技術研究所)が解析してくれて、空気の流れを改善する
ことに、これも性能向上に繋がった。
通常のオートバイのT/Mギヤはギヤにドック(爪)が付いており、ギヤが動いて段数を変えるのであるが、
”H2R”のT/Mギヤは自動車と同じくドックリングが動いてギヤ段数を変更するものであり、
ギヤ自体は動くことがないのでチェンジがスムーズになる。 巨大なエンジントルクに耐えられる様に
各ギヤ、各シフトフォークにはオイル噴射をして潤滑と冷却を行っている。
クラッチはFCC社製のアシストクラッチでクラッチレバー荷重はすこぶる軽くなっている。
技研(社内技術研究所)のサポートを得て内製化したインペラー。高強度アルミ材の削り出しなので、様々なインペラーをテスト
することが出来た。 量産時も総加工となる。
でんでん虫(ハウジング)も様々な形状をテストしたが、性能への影響は少なかった。 インペラーの10万rpmを受ける軸受けには耐久性の確保からセラミックボールBrgを使用した。
手元に計画図も組立図も無いのでパーツリストで代用する。
遠心過給機のイラスト。
インペラーは最高10万rpmで回転する。
10倍速遊星ギヤのイラスト。
シリンダヘッドは圧縮比ダウンの為に燃焼室形状の変更、
吸入空気量の増大に対して吸気ポートを拡大している。
ヘッドカバー、二次エアーリードバルブ類は
ZX−10Rから変更無し。
ラムエアーダクトから続くエアークリーナボックスと吸気ダクトは圧損が少ない様にストレート形状を多用している。
吸気への雨水侵入防止はラムエアーダクトに設けられている。
排気系は圧損による出力ダウンの影響が少ないので、
充分な排気音対策が行われている。 ジョイントパイプ部
には触媒も配置されている。
エンジンバルブはNAエンジンから変更点は少ない。
カムスプロケットはZX−10Rとバルブタイミングを
変更出来る様にボルト止めとされている。
ピストンは圧縮比を下げる為に頂面を少し低くしている。
コンロッドはTiを採用したバージョンがあるが、
個人的にはTiにするメリットは何も無いと思っている。
二次軸バランサーでどれ程エンジン振動が低下したのかは
覚えていない。 採用しているからにはエンジン振動は
下がっているのだろう。
FCC社が開発したアシストクラッチにはバックトルク
リミッタ―機能も付いている優れものである。 クラッチ操作は
各段に軽くなる。 その後、他機種にも展開されていった。
T/Mギヤは通常のドックT/Mギヤでは無く、自動車の
T/Mギヤで一般的なドックリングギヤを採用している。
カワサキのバイクでは初採用である。
クランクケースは一般的な構造で特別な物は無い。
カバー類もスーパースポーツ車では一般的な
軽量化目的でMgダイカスト製としている。
S・Cエンジンとしては遠心過給機、10倍速遊星歯車、
駆動チェーンが追加されている。
吸気チャンバーにはポップアップバルブ、温度センサー、
気圧センサー、トップインジェクターが取りけれられている。
”H2-R”の量産には立ち会えなかった。
  2014年6月に川崎重工業勤続46年にて定年退職となった。
H2-Rとは開発コード:2101の試作エンジンから5年間、携わって
来たが、4ヶ月後の量産試作組立には立ち会えなかったのが残念である。
川崎重工業では充分遊ばせて頂いて会社には感謝しています。
  スノーモービルの富士山走行テスト、ジェットスキーの沖縄耐久テスト、
モトクロスの社内クラブ、これで給料を貰って良いのかと何度か思った程、
楽しい仕事だった。 しかし、過給エンジンの開発は間違った知識からの
トップダウンであり、任せて貰えればちゃんとやるのに、不可能な指示が
下りて来るので、それに従う気が無くなった。 間に入った課長が可哀そう
ではあった。 そんな訳で後日頂いたらしい H2-Rの社長表彰は一番長く
携わった来た おいらには廻ってこなかった。 まあ、そうなるわなー。